5時少し前に目が覚める。
家の中はまだ薄暗く、自分だけが目を覚まして静かに起き上がる。
外はもう明るくて、蝉の声が多重録音のように反響している。
穏やかな風がカーテンを揺らして、まだ手つかずの一日の始まりを告げる。
予感に満ちた朝。
部屋でぼんやりしながら音楽を聞いていると、色々な思いが浮かんでは消えていく。
エリカ・バドゥが歌っている。
we're still livin'
Oh in this crazy crazy world
私たちはこの狂った世界で生きている
これは1997年の歌で、今は2021年だけど、あの頃とはまた違った意味で私たちはこの狂った世界で生きている。
先の見えない毎日を生きていく上で大切なのは、無理に先を見ようとしないことだと思う。
その代わり今をきちんと見つめること。
今をきちんと生きることは難しいようでいて実はそうでもなく、まずは自分と真っ直ぐ向き合うことから始まる。
そして、自分がやるべきことを定め、後はひたすらそれをやる。
無心にやる。
ある人にとってそれはパソコンのキーを叩くことであり、ある人にとってそれは参考書の問題を解くことであって、ある人にとってそれは全力でフィールドを走ること。
自分の場合で言えば、それはパンを作ること。
作ったパンでお客様に喜んでもらい、店を回すこと。
毎日パンを作り、サンドイッチを作り、それが余らず売れていけばすごく嬉しい。
あと、毎週山本さんに作って持ってきてもらっているケーキは自分で作っていないぶん、お預りして販売している責任があり、完売した時の安心感は大きい。
山本さんは、暑い日も、寒い日も、自転車で一時間くらい(たぶん)かけてうちの店までケーキを納品しにきてくれる。
本当に頭が下がる。
一生懸命作ったものが売れ残ってしまうこともあるけど、それは絶対に無駄にしない。
自分が食べるか、近所の人に分けるか、とにかく誰かが食べる。
幸い誰も食べ切れない程のロスは出したことがない。
こんな暑い毎日にわざわざ駅から離れた店まで来てくれる方々がいるのは奇跡のようなありがたいことだと思う。
毎年夏になって町を歩く人が減っていくのを見て思うことだけど、去年と今年は特にその奇跡を身に沁みて感じる。
いいことばかりじゃないけど、悪いことばかりでもない
そんな歌を中学生の頃から聞き続けて、今でもまだ背中を押されている。
明日どうなるかなんてわからないけど、まずは今日をちゃんと生きてみようか。
そんなわけで僕は今日もパンを焼く。
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