こんばんは。
最近はもう本当にあれですね、値上げの話ばっかりですね。
できればスルーしたい話題なんですが、そうも言ってられないので今日は腰を据えて考えてみたいと思います。
今、世の中には大きく分けて二種類の店があります。
・もう値上げをした店
・まだ値上げをしていない店
ほとんどの店は、このどちらかに属しています。
特に飲食店、中でも小麦粉を多く用いる業態は原材料の大幅な価格高騰に耐え切れず、商品の値上げに踏み切った、という話をよく聞きます。
もちろん小麦だけではなくて、他の原材料、ドライフルーツとかナッツとか塩、さらに紙袋や箱類にいたるまでほとんど全てのものが価格高騰しているのですが、ここではひとまず小麦について話を絞ります。
それぞれの判断にはそれぞれの背景があります。
扶養する家族の数、従業員の数、返済金、事業拡大資金、その他諸々の何か。
その背景を理解せずして一様に値上げの是非を問うことはできません。
同業者が値上げしたとして、その心情を察することはできます。
しかし一方でお客様の側にもそれぞれの背景というものがあります。
例えば100円の値上げについて、その受け止め方、痛みの度合いは千差万別でしょう。
にもかかわらず、値上げというのは誰に対しても一律一定なのです。
多少の例外はあるかもしれませんが、基本的には小銭を握りしめてくる子供だろうが、高級車で乗り付けるご婦人だろうが、全て同じ負担を強いるのです。
僕が値上げについて懐疑的なのは、主にそういうところです。
当店に関して言えば、現時点で「まだ値上げをしていない店」です。
現時点だけでなく、これまでもほとんど値上げというものをしてきませんでした。
消費税増税の時も、ひたすら耐えました。
いつまでそんな店でいられるのか。
小麦粉価格高騰の影響は、あります。間違いなく。
フランスパンは、言わずもがな、たくさんの小麦粉で作るパンなので、小麦粉の価格高騰はパンそのものの原価に多大な影響を及ぼします。
誰かが、今までよりも多くのお金を払わなければならない。
それは誰なのか。
ババ抜きのごとく、最後にジョーカーを持たされるのは誰か。
小麦と、その価格転嫁の行方を大雑把に可視化してみると、以下のようになります。
①小麦(海外)→②(輸入)日本政府→③製粉会社→④問屋→⑤飲食店⇆⑥消費者
①から④までの流れは一方的かつ不可逆的なのに対して、⑤と⑥の位置関係は双方向的かつ流動的です。
⑤と⑥の間には少なくとも話し合いの余地があり、相互理解の可能性があり得ます。
だからこそ手をとり、強いられる負担に立ち向かわねばならないのです。
大体ババを引かされるのは流れの末端にいる⑤か⑥の人達です。
もし飲食店が値上げをすれば、お客様の支出は増えて家計を圧迫します。
もし飲食店が値上げをしなければ、店舗の支出は増えて経営を圧迫します。
もちろん③や④の人達も、日常的に食料品を買う時は⑥の立場になるわけで結局はどこかしらで影響を被ります。
それから国産・外国産関係なく全ての小麦が影響を受けています。国産だから大丈夫だろう、というのは通用しない世知辛い時代です。
(少し話が逸れますが、②の段階で値上げ分を相殺することは出来ないんでしょうか。ガソリンの場合は政府がどこからか←どこだろう。補助金を捻り出してきましたよね。ガソリンで出来たことが小麦で出来ないというのは謎です。それとも別次元の話なのでしょうか。素人考えですみません。)
弱い者達が夕暮れ
さらに弱い物をたたく
その音が響きわたれば
ブルースは加速していく Ⓒ真島昌利
かつてマーシーが綴った歌詞が、今でも胸に響く2022年、日本。
これまで数え切れないほどの封筒をもらってきました。
その封筒には毎回「時下ますますご清祥のこととお慶び・・・」から始まるお決まりのイントロから「新価格は・・・・以上」に至る有無を言わさぬアウトロまで、お約束の文言が連なる手紙が入っています。
その場で破り棄てたい衝動を抑えながら、いつか役に立つかもしれない、とポジティブシンキングでファイリングしています。
(後半フィクションです。)
この封筒の恐ろしいところは、もらったが最後確実にアゲ一辺倒で、サゲは未だかつてNever ever 皆無ということです。
封筒だけ見て、中身を見なくても何が書いてあるかわかります。
だから封筒を見るだけで震えます。
忌まわしきパブロフリアクションです。
この封筒を渡す側としてもやはり平気な訳はなく、皆さん辛そうに持ってきます。
この一億総値上げ時代においては、絶対的強者というのはいなくて誰もが弱者になり得るのです。
今年も既にこの封筒がいっぱい届いています。
深夜のAMラジオのごとくお手紙ラッシュです。
そういう過酷な現実を前にして、企業努力とはどのようなものかを今一度考えてみるのです。
原材料の支出増は免れない、そして「値上げ」という形で収入を増やすこともひとまず考えない、そこで原材料以外の部分で支出を減らせないか、と。
これまでの当店の場合。
固定電話を解約しました。
大家さん宛に長い手紙を書きました。
営業時間を削りました。(光熱費が減りました。)
お客様にはご不便をおかけする場面もあるかと思います。
が、これは共同戦線なのです。
末端に置かれた人達が、手をとり合って危機に立ち向かう、という。
特定の誰かが負担を一手に請け負うのではなく、その痛みを現実的に按分していく試みです。
何かを捨てて、何かを得る。
パンにかける原価はコストカットせず、その販売過程で生じるコストをカットしていく。
電話がつながらないわー、とか閉まるの早いねー、とか、お客様にはご不便おかけしていると思います。
しかし、その背景にあるのは、固定費の削減により原材料の上昇分を出来る限り相殺する(=お客様への価格転嫁を避ける)、という考え方です。
これが当店なりの企業努力です。
結果、現時点で当店のパンはいつもどおりの値段です。
そして、これが一番大事なことですが、当店のパンは、いつも通りのパンです。
どんな状況でも、いつものパンを焼くこと。
いつものパンを、いつもの通りに提供する、その難しさと尊さを実感する、今日この頃です。
皆様のご理解・ご協力に感謝しつつ、当店は今まで以上でも以下でもなく、いつも通りにやっていきます。
今のところは。
そんなわけで、明日からもよろしくお願いいたします。
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