小舟

こんばんは。

先日、ある方から店に電話がかかってきました。

当店が紹介されたあるメディアをご覧になった会社の方からでした。

当店のパンやジャムを通販で流通させてみないか、というお話でした。

自分の中でフランスパンは生鮮食品の位置付けですので、通販は難しいなーと思いつつ、ジャムの通販には興味があり、お話をうかがってみようと思いました。

程なくして営業の方がお店にいらっしゃり、ビジネスの話になりました。


通販のみで月商〇〇万円を目標にし、そのためにこれをこうして・・・といった話になり、で、オーナーさん（僕）はどういう経営ビジョンをお持ちですか、みたいな話になり。

（ビジョンかぁ、、、。）

と、話しながら考え込んでしまいました。

というのも、僕の中には二つの矛盾する思いがあるからです。


それは、「売れたい」という思いと「売れたくない（というと語弊がありますが、、）」という思いです。

経営者として店を発展させていく上で、お金は増やさなくちゃいけません。

売れたくないわけがないです。

僕が言いたいのは、売ることで頭がいっぱいになってバランスを崩す恐ろしさのことです。


働く時間と家族（娘）と過ごす時間のバランス、常連のお客様と新しいお客様のバランス。



大海に浮かぶ小舟は、脆く流されやすい存在です。

少し波が来ただけで足元をすくわれてしまいます。

その中で自分を見失わないようにすること、自分を保つこと。



僕らのように二人だけで小さな店を営む人間というのは、ましてや家族経営という形で営業する場合は、利益の追求だけでなく「家族の幸せ」というものを同時に考えているものだと思います。

そしてまた、オーナーという形で裏方にまわるのでなく、生産者として現場に立つ者は、自らのものづくりに誇りを持って働いているはずです。

自分が単なるビジネスオーナーで、利潤の追求のみを目的にしているのであれば商談はスムーズに運んだと思います。

家族の幸せやらものづくりのプライドやらを持ち出す自分は、青く甘っちょろい奴として先方の目に映ったかもしれません。

ただ、僕は売れたくないのではなくて、自分を見失ってまで売れたくない

そう思いました。


自分が何故店をはじめたのか。


自分の好きな町、地元の人に僕が美味しいと思うフランスパンを食べてほしい、自分の好きなものを追究したい、誰かと共有したい。

家族の繋がりを深めたい、自分の好きなことを仕事にしたい、誰かを喜ばせ、自分も喜びたい。


そうやって思いつくままに挙げてみると、どこにもお金の話が出てこないのでした。

ビジネスオーナーとしては失格、ですかね。


これから僕がもっときちんとした経営者になれたら、その時は改めて業務拡大の話を（その時はもう遅いでしょうが）考えたいです。担当者さま、どうぞよろしくお願いします。


店を始めてやっと一ヶ月、何となくですが収支の計算ができました。そして二ヶ月目に入り、少しずつ店の回し方がわかってきたような気もしています。

皆様のおかげで、ひとまずのところ家族で（地味に）暮らしていけそうです。（ほっ。）


とは言えここ数日、再びパンが売り切れることが続き、お客様にはご迷惑をおかけしております。

もっとパンを作らないのか、と聞かれる度申し訳ない気持ちになります。

現状のままではいけないこともよくわかっております。

近日中に体制を整えます。

勝手なお願いで恐縮ですが、これからもよろしくお願いします。